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「リショアリング」という言葉がある。国外移転した生産拠点を、再び国内へと戻すことだ。
2020年以降のコロナ禍による人流・物流のストップ、ロシア・ウクライナ紛争を発端とした地政学リスクの高まり、そして第二次Trump政権による関税措置と、リショアリングという言葉の重みが増しているのが、世界経済の現況といえよう。
こうした中で2024年に誕生したのが英国のスタートアップ、Isembardだ。24日、シード資金調達ラウンドで900万ドル(13億円)を得たことで、世界のメディアが同社を報じている。
Isembardは、機械部品をつくり、顧客の要望に応じて最終製品の組み立てまで行う。しかし、現時点で同社の従業員は、総勢12人にしか過ぎない。
こうした環境にもかかわらず、Isambardは高精度なマニュファクチャリングを、国内、あるいは、近隣国で実現できると訴える。どのように行うのか、まず顧客が発注してからの流れを見ていきたい。
部品をつくってほしい顧客は、3Dファイルによる図面をIsambardへ送付。受け取ったIsambardは、納期を含めた見積もりを提示する。受注に至れば、CNCによる加工や射出成形、また前述の通り要望に応じて組み立てを行う。
この流れを実際に行う工場の第1号が、すでに1月から英国内で稼働中だとIsembardのAlexander Fitzgerald CEOがTechCrunchのインタビューに答えている。今後、欧米で工場ネットワークを築いていく構想だ。コンピューターによる計算処理で小規模分散させる方法があるが、これを製造業に応用したものと受け止められる。
また、工場のネットワークや事業プロセスなどを統合的に運用するため、自社開発ソフトウエアのMason OSを利用。小規模分散での生産、そして高精度な製品をこれによって実現する。
さて、ここまでを読んで従来のオフショアでの受託生産と何が違うのか、と思うかもしれない。ソフトウエアによる運用以外は、同じと見てよいように思われる。
Isembardが目指す根本には、英国で0.3パーセントに落ちてしまった世界の製造業におけるシェアの回復がある。また、広く欧米で工場ネットワークを築いていくのも、かつての工業国を復権させる意味合いがあるのだろう。他、納期の短縮といった実務的なメリットも考えられる。
Isembardは、まず航空宇宙、防衛、エネルギー分野に絞って製造を行う。前出のTechCrunchによると、すでにスタートアップからの受注があり、今後の展開について政府機関とも協議を始めているという。
コロナ禍によって自国内でマスクがつくれないと判明したフランスでは、国民が動揺した。日本でも、かつてつくっていたものが今となってはつくれない製品があることも十分に考えられる。
個々のメーカーのレジリエンスを高めていくため、同様のスタートアップが日本を含めた他の国でも登場することを期待したい。